上告趣意書(高木一行)

平成27年(あ)第1840号
麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反、大麻取締法違反被告事件
被告人 高木一行
最高裁判所第一小廷御中

平成28年2月10日
被告人 高木一行

上告趣意書

 上記被告人に対する、麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反、大麻取締法違反被告事件について、上告の趣意は、下記の通りです。
 いわば国家の良心である憲法にもとづき、国民の目線で客観的に吟味していただきたくお願いいたします。

一、証拠に基づかない罪状を認定していることについて

1、このたび私が最高裁判所において最も問わせていただきたいのは、次のことです。
 で詳しくご説明申し上げますが、検察官が論告要旨にて主張した一部の罪状と、その罪状を立証するために挙げられた証拠の内容はまったく無関係です。
 その無関係な証拠をもとに検察官が主張した罪状を、第一審と控訴審はそのまま認めました。
 このようなことが、わが国の司法制度では許されるのでしょうか?
 罪状と証拠の間に因果関係がないことは、別に複雑な内容ではなく、論告要旨と証拠を突き合わせて読みさえすれば、一般市民の誰でも直ちにわかるものです。
 私が第一審の当初からずっと一貫して述べてきたように、自らが犯した過ちについて潔く自ら責任を負うことは当然です。しかしながら、証拠に立脚することなく科された罪状にはどうしても納得することができないのです。
 普通の市民感覚でも充分納得がゆく説明を、最高裁判所にお願いいたします。

2、第一審の判決文8頁、19行目~23行目で、以下のように論じています。

①私の共犯とされたA氏は、捜査の初期段階において、メチロンが麻薬であるとは知らず輸入したと供述していた(第一審弁第33号証)。
②これについてA氏は、この供述は私を庇うためであったものの、捜査の進展によって嘘が発覚すると考え、真実を話すことにしたなどと、供述を変遷させて理由を合理的に説明しているのであるから、かかる変遷によりA氏の供述の信用性は揺らがない。

 ②については、A氏が供述を変遷させたことを示す証拠として、検察官が論告要旨の中で、以下のように述べており、それを判決文でも証拠内容を検証することなくそのまま踏襲しています(論告要旨9頁、17行目~21行目)。
 具体的には次の通りです。

①A氏は逮捕当初「被告人からメチロンが違法かどうかという話はなかった」旨、供述していた(第一審弁第34号証)。
②しかし、これは被告人(私)を庇うためについた嘘であり(第一審甲第14号証)、供述変遷に合理的理由があるので、供述の信用性は揺るがない。

 問題は、第一審弁第34号証と第一審甲第14号証の内容です。
 どちらも検察官が主張している内容とは無関係だからです。
 第一審弁第34号証には、「被告人からメチロンが違法かどうかという話はなか
った」との供述は確かに存在しますが、それ以外の部分を読めば明らかな通りA氏が処罰された事件とは無関係であり、同様に私の事件とも無関係です。
 第一審甲第14号証には、私を庇うためについた嘘に関する供述などどこにも存在しません。
 A氏が私を庇うため、「実はメチロンが麻薬であると知っていたにも関わらず、麻薬とは知らなかったと嘘をついていた」という供述は、A氏の全供述書のどこにも存在しないのです。そして私は、庇うために嘘をついてほしいとA氏に頼むようなことも一切しておりません。

 にも関わらず、第一審の判決文を読むと、私の共犯とされたA氏は、「当初メチロンが麻薬であると知らなかったと供述していたが、捜査の進展とともに、真実を話し、メチロンが麻薬であることを知っていたことを自白した」と誤って認定しており、その認定が控訴審判決でもそのまま引き継がれています。

 控訴審を担当した金井塚康弘弁護士が、情報開示されたA氏の供述調書の全てを入念に調べた結果、A氏は逮捕直後から、自らの裁判で刑罰が確定した後まで、常に一貫して「メチロンが麻薬だとは知らなかった」と述べており、この重要な点に関して供述がまったく変遷していない事実が確認されました。

 第一審判決文では、「A氏の供述は信用できる」としながら、A氏の供述内容とは異なる正反対の事実を認定しています。

 控訴審でこの点を正すべく、弁護士立会の元で作成されたA氏自身による陳述書を証拠請求しましたが、却下され、第一審の認定がそのまま支持されました。
 控訴審判決文は次のように述べています。「もう隠しきれないと思い、正直に話すことにした旨供述しているのであり(原審13)、原判決が説示するとおり、Aが、捜査の進展に伴い被告人をかばいきれないと判断して自白するに至った経緯につき、合理的な説明をしているといえる」(控訴審判決文8頁)。
 しかし実際には、A氏の供述は「正直に話すことにした」後も、「メチロンが麻薬とは知らなかった」が「メチロンが麻薬と知っていた」に変遷したことは1度もありません。A氏は私同様、メチロンが麻薬であるとは知らなかったのです。
 取調べにおいても裁判においても一貫して「メチロンが麻薬とは知らなかった」と述べていたことについて、A氏の供述と私の供述は完全に一致しております。
 A氏が「メチロンが麻薬とは知らなかった」と一貫して主張していた事実は、A氏が電子掲示板で「Rの鳥居が何らかの規制を受けたらしい」との私の投稿を見てなお、「麻薬とは知らなかった」事実を示します。他の物証もない中、氏の供述のみによって私がメチロンを麻薬だと認識していたとする事実認定は、著しく合理性を欠くものではないでしょうか。

 上告審用に弁護士監修の元でより詳しく書き直されたA氏による供述書を、上告審弁第1号証として弁護人を通じ証拠請求いたします。

 すでに述べたように、自らが犯した罪に対して責任を負うのは当然のことであると私は考えています。ただ、「メチロンが麻薬であると承知した上で密輸を企てた」のと、「以前と同じく、インターネットを通じクレジットカードで気軽に購入したものが、知らないうちに麻薬指定されていた」のとでは、罪の性質に大きな違いがあるのではないでしょうか。
 それについて、第一審と控訴審ではまったく顧みられることがありませんでしたが、最高裁判所では社会的な正義と関わる重要な問題として取り上げていただけるものと信じます。

3、最高裁判所に対する国民レベルのお願い

 上告審弁第2号証は、アカデミズムの立場からドラッグ問題全般を研究している、おそらくはわが国における唯一の専門家である社会学者の山本奈生先生(佛教大学特別専任講師)が、最高裁判所に対して記してくださった意見書です。私の裁判で主な問題となっているメチロンと大麻について、その実体や歴史、世界各国における扱われ方が客観的かつ詳細に述べられています。

 上告審弁第3号証は、布川事件で冤罪被害者となった桜井昌司氏による最高裁判所に対する請願書です。証拠に基づく客観的な判断を求める内容です。周知の通り、桜井氏は無実の罪で29年もの長年月を刑務所で送り、その後も無実を訴え続け、事件発生から実に44年目にして無罪判決を勝ち取った方です。
 また、90年近くに渡り多くの冤罪被害者を支援し続けてきた国民救援会も、私の裁判に関心を持ってくださり、救援会として裁判を支援することについて現在検討中とのことです。国民救援会中央本部・事務局長、坂屋光裕氏からは私の裁判について、「現時点では国民救援会として、最高裁判所が憲法や刑事訴訟法、自由権規約に基づき、公正に審理し裁判することを強く要望します」とのメッセージをいただきました。
 このように、多くの人々が日本の正義という観点から私の裁判に注目し、その成り行きを見守ってくださっています。最高裁判所に対し、公正で客観的な審理を重ねてお願いいたします。

二、メチロン麻薬指定の手続き面における問題について

1、被告人控訴趣意書でも記しましたが、メチロン麻薬指定のプロセスには、公文書中に麻薬指定に重大な影響を与えた可能性が高い虚偽の説明があり、「イギリスとオランダで既に麻薬指定されている」という虚偽記載と、「薬理作用に幻覚性がある」という虚偽記載が複数含まれています。
 その他、指定薬物指定と麻薬指定が同日に検討された上に、パブリックコメントの状況からは麻薬指定が進行していることを一般市民が把握できなかった問題点(にもかかわらず、インターネットで逐次情報を収集していたはずだから麻薬指定を知っていて当然、との控訴審判決における決めつけは合理性を欠きます)、依存性薬物検討会の議事録の非作成の問題、舩田報告書の非科学的内容の問題等を提起いたしました。

 結果的に控訴審判決では、どれも問題なしとされましたが、とりわけ、「依存性薬物検討会の在り方については、審議会による審議・承認等の義務付けがないのに、任意に主催した依存性薬物検討会で各分野の専門家が事前に配布された資料をもとに検討して麻薬相当としたのだから、十分慎重な検討が行われており、一部不正確な情報があったとしても審査結果を左右しなかったし、同検討会の議事録が非公開である事も問題ない」とされました(控訴審判決文19~20頁)。

 しかし最大の問題点は、依存性薬物検討会の議事録が「公開されていない」ことではなく、「議事録が作成されていない」ことです。この最も重大な点について、控訴審判決では全く触れられておりません。
 確かに、規則上、議事録の「公開」は場合によってはしなくても良いことになっていますし、私的諮問機関である依存性薬物検討会となればなおのこと厳密に適用する必要はない、と言い得るのかもしれません。
 しかしながら、依存性薬物検討会は基本的人権を強く制限する重い刑罰を課す法律の改正に深く関わる検討会です。その議事録が作成されていないという事態は、省庁内の規則を云々する以前に、そもそも憲法の観点からして本当に「問題ない」のでしょうか。

 改めて述べるまでもなく議事録の作成は、検討会の透明性、合理性、検証可能性を保証する要ともいうべきものです。メチロン麻薬指定の科学的根拠とされる、問題だらけの舩田報告書の実態を考慮すれば、一体、誰が、いかなる議論を以て、麻薬相当と結論づけたのかを明確にすることは絶対に必要なことではないでしょうか。
 厚生労働省が公式に認めた議事録の非作成は、基本的人権に強い制限を加える法律改正の過程が、今だけでなく、将来にわたって検証不可能であり、「依存性薬物検討会は一体誰が何をやっているのかわからない」状態が未来永劫続くことを意味します。
 これでは、一部の利害関係者が独善的に行政を運営していくことに歯止めをかけることができません。
 法律の詳しい論理は分かりませんが、憲法31条が保証する「適正手続」の基準が、国民の社会的常識から乖離していてはならないと考えます。
 依存性薬物検討会の議事録が作成されてさえいれば、これまでに私が弁護人と共に提起してきた問題点のほとんどについて、議論の余地なくはっきり結論が出せたはずです。

 2審判決文では、「規則上の義務がないのに私的諮問機関である依存性薬物検討会で麻薬指定について検討しているのだから十分慎重に進めている」としていますが、本来、このような性格の検討会は、設置根拠法令をもつ審議会であるべきではないでしょうか。審議会であれば、議事録の公開はすぐにはできなくとも、議事録作成の義務は担保され、将来、必ず検証に供され、民主主義の発展につなげ活かすことができましょう。
 より刑罰の軽い指定薬物指定は、情報公開を含め、さまざまな縛りが課される審議会で審議されているのに、より刑罰の重い麻薬指定は、何も縛りがなく、将来においても検証のしようがないという不自然でアンバランスな状態であるというのは、ひとり私のみでなく、国民の常識にかなうものではないと思います。

2、メチロン麻薬指定に重大な影響を与えた可能性が高い虚偽の説明が、公文書中にあることについて

 基準・認証制度にもとづき厚生労働省がメチロン麻薬指定の政令改正案審査を内閣に依頼した際、「イギリスやオランダですでに麻薬指定されている」「メチロンには幻覚性がある」と公文書に記していますが(第一審弁第71号証)、控訴審判決でも認められたように(控訴審判決文14~15頁)、両方とも誤りです。しかしながら控訴審では、「確かに誤りではあるが、それが審査に影響を及ぼしたとは思えない」との判断がなされました。
 法律の観点からはそうなってしまうのかもしれませんが、普通の市民感覚では納得致しかねるところであり、そうした矛盾を最終的に正して司法と国民の間でバランスを取る役割を果たすのが最高裁判所という存在であると思います。憲法の観点より、最高裁にて改めてご判断いただきたくお願いいたします。

 第一審弁第71号証19ぺージに、基準・認証制度においては、他国における規制状況と比較しながら、審査対象について厳正に審査しなければならない、とあります。
 基準・認証制度とは元来、WTO(国際貿易機構)加盟国同士が国際間の基準を揃えることを目的とするものです。よって、メチロンの麻薬指定が他国ではどのような状況であるかの情報は、審査の過程で判断に重大な影響を与えたであろうことは明らかです。
 すでにオランダやイギリスでは麻薬として規制されているということであれば、「それではわが国もそれらの国々に追随するのがよい」と、当時の日本におけるWTO事務局の窓口であった内閣官房副長官補室は自然に考えたでしょうし、おまけに「それには幻覚性がある」となれば、なおのこと「麻薬として規制するのがふさわしい」と判断したはずです。
 しかしながら現実には、日本でメチロン麻薬指定案の審査がなされた平成18年(2006年)当時、この未知の物質を麻薬指定していた国は全世界に1つもありませんでした。

三、メチロン麻薬指定の実体面の問題について

1、メチロンは厚生労働省の平成18年度の依存性薬物検討会において麻薬相当と結論され、麻薬に指定されました。
 その自然科学的根拠は、国立精神・神経センター所属、舩田正彦氏の研究報告「脱法ドラッグの構造修飾特性とその依存性および神経毒性発現の関連性」です(第一審甲第54号証)。
 この報告書の検証を、アメリカやイギリス、イスラエル、オーストラリアでMDMAなどの人に対する臨床試験を実施している研究者たちに依頼しました。結論を簡潔に述べると、舩田氏の報告書は過剰な量の薬物を投与して実験結果を恣意的に導いており、本来、人が使用する範囲を越えているため、正確な評価がなされていないということでした。
 しかしながら、第一審、控訴審における判断は、「実験に使用されたメチロンやMDMAの量は大量とはいえない(適切である)」というものでした。
 どのような理由で「問題なし」との結論が導き出されたかはわかりませんが、舩田報告書の実験(特に神経細胞に対する毒性をみる実験)での薬品使用量が適切であるならば、裁判で問題となっているメチロン100gは人間では1回分の使用量にも満たないことになる事実を、ここでは指摘させていただきたいと思います。
 足利事件、東電OL殺人事件、鹿児島天文館事件などで科学データの杜撰さが重大な問題となったケースも多々ありますので、メチロン麻薬指定の実体面についても厳正に審査する必要があるのではないでしょうか。

2、舩田報告書はメチロンをMDMAと同じフェネチルアミン類とし、MDMAと比較して実験報告を作成しています。
 ところが、メチロンは実際にはカチノン類であり、化学的な分類がそもそも違う物質であるため、MDMAを比較対照としてメチロンの作用を推測するのは、科学的にも一般常識からしても、明らかに誤りといわざるを得ません。自動車の機能を知るために自動車同士を比較するのは妥当ですが、自動車の性能を自転車との比較によって理解しようとするのは非合理的です。
 このことについては、舩田報告書の内容検証をお願いしたアメリカのリック・ドブリン博士とイルザ・ジェローム博士も、上告審弁第3号証(控訴審弁第10号証)において指摘しています。ドブリン博士はハーヴァードのケネディ行政大学院から公共政策の博士号を得ており、この大学院で、サイケデリックス(幻覚剤)と大麻の医学的使用に関する法規についての論文、および癌患者の嘔気抑制における喫煙大麻対経口THC(テトラヒドロカンナビノール)錠剤に関する腫瘍学者の調査での修士論文を著わしています。メチロンやMDMAに関する世界的権威の1人です。

 舩田氏がメチロンをフェネチルアミン類と誤解したまま実験を行い報告書を作成した2006年(平成18年)、ニュージーランドでもメチロン規制に関する審議が行われています(結果は、麻薬指定は妥当でない、というもの)。上告審弁第4号証(控訴審弁第32号証)はその際の議事録ですが、ここでも「メチロンはカチノン類である」と明記されています。つまり、メチロンがフェネチルアミン類ではなく、化学的構造と分類が異なるカチノン類であることは、平成18年当時、世界の化学界ですでに常識であったということです。

以上