第1章・第2回 「道」への確信

高木美佳(以下、高木) 渡邊さんがこの裁判に関わる以前の、裁判所に対する印象はどんなものでしたか?

渡邊義文(以下、渡邊) えん罪っていうことに関して、あまり耳に入ってなかったんで、裁判官が適切に、公平中立な立場で、よく証拠を調べるなりしていると思っていました。
 人間を罪に問うて、長ければ何十年とか、死刑とかを宣告するわけですから、それは確実に証拠を詳細に調べ上げて、疑いようもなく犯人であるということが立証された上で刑を言い渡すのだろうと。本当に、真面目に、まともに、裁判というものは行なわれているんだと思ってました。裁判官としてのあれだけの地位を得ているわけですから、日本でも有数のあらゆる面で知的な人というイメージがありました。

高木 渡邊さんは、夫(高木一行)の裁判の第一審からほぼすべてを傍聴されていますが、その体験を経て、裁判や裁判官に対する印象は変わりましたか?

渡邊 つまり何が一番僕らの中で腑に落ちなかったのかというと、こちら側(被告・弁護側)の言い分を一切聞いてくれんわけですね。こちらに有利な証拠が採用されないという現実を目の当たりにしました。向こう(検察官)が不同意(証拠を採用しないよう求めること)と言えば、裁判官はそれを受けて「却下します」。・・・それで終わってしまうわけです。
 どんなにこちら側が信頼できる証拠を集め、論理的に主張を述べても、「不同意です」「では却下します」・・・ずっとこういう状態でした。何も聞いてもらえない中で、闘っていかなければならなんです。
 弁護士に言わせると、これはおかしいことではない、と。なぜかというと、検察の出した証拠について、こちらも不同意にできるからというんです。同等の立場・権限があるのだから、検察がこちらの証拠を不同意にしても、おかしいとはいえない、と(注1)。

高木 でも、一般市民の感覚からすると、おかしいことですよ。

渡邊 第6回公判(平成26年8月18日)当日の朝、検察官から出された証拠の関係で色々と問題が起きまして、それをきっかけに、僕らが動き出したんです。これは弁護士任せにしてはおられないと。

高木 それまではほぼ完全に、弁護士任せでしたね。

渡邊 そうです。裁判は素人が手を出せる世界じゃないと思ってましたから。ほとんどの人が、弁護士に任せるしかないと考えるんじゃないでしょうか。高いお金を払ってるんだから、信頼して、任せるしかないと。

高木 その通りです。本来なら弁護士には、その信頼にぜひ応えていただかなければならないですね。弁護士任せにできないという現実に突き当たって、渡邊さんを始めとする<高木一行を支える会>の発起人メンバーの方々が、弁護士が本来行なうべき仕事を、ほとんど全部肩代わりされたのが、高木裁判でした。

渡邊 自分たちで色々調べ始めたことをきっかけに、厚生労働省の麻薬対策課が一体何をやっているのかという、中身に深く入り込んでいったわけです。そこで出てきたのが、行政のずさんさというか、国民度外視の勝手なやり方で、およそまともなことはしてない。法とか、ルールとか、科学でさえも、自分たちの都合のいいように利用してやってる実態っていうのが、徐々に明らかになりました。
 高木先生を裁く根拠である法律の作られ方がそもそもおかしい、間違っている、という証拠を、裁判所に随時提出していきましたが、結局それらはすべて無視されてしまいました。
 社会学者の山本奈生先生(注2)によると、こういう闘い方は普通の裁判ではやらないそうです。つまり、行政に問題があることを指摘するというのは、ほとんどあり得ない闘い方だというのです。しかしそういうことをしなければ、厚労省が色々な不正をしていたことはわかりませんでした。国民が実際に、国家権力の被害者になってみなければわからない、これが現実なんです。
 高木先生と同じような罪で裁かれる法廷では、被告人が100%悪い、と弁護側が認めてしまうんです。「私が悪うございました」と謝罪し、反省したことを示し、「情状酌量」を求めるという、これが普通のやり方だそうです。刑を軽くしてもらうために、心にもないことを言うわけです。しかし先生の場合、一切そういうやり方はされなかった。それがこの高木裁判の大きな特色でもあるわけです。それが、今の活動につながる礎になっています。

高木 もし逆に、夫が情状酌量を求めて、自分の信念を曲げていたら、おそらく皆さんは、夫を支援しようとは思えなかったんじゃないでしょうか。

渡邊 高木先生の初公判の日、先生が扉から顕われた瞬間から、違ってました。「これはいつもの先生だ」と。たとえ国家権力からどんなに虐げられようとも、一切、姿勢を崩されていなかった。初公判の時、裁判官から名前、住所、職業を聴かれ、それに答える先生の声を聴いた時も、「いつもの先生だ」と。

高木 法廷に出ると、上座に構える裁判官や、法廷そのものの圧力で、普段通り話せなかったり、声がでなくなると、実際証言した人から聴きましたし、広島での法廷を傍聴した時ですが、本当に声が出なくなって、何を話しているか聴き取れない人をみたことがあります。刑事裁判の法廷で、しかも被告人の立場で、普通に発言するということは、私も含め、普通の人にはできないと思います。本当に、夫は普段通りの夫でした。

渡邊 一切、何も変わらず、普段通りの堂々とした先生がそこに立っておられました。それを観(み)た瞬間から、「ああ、これはもう、ついていくしかない」と。先生の姿勢に、理屈抜きで共感したんです。一緒に傍聴していた東前さん(注3)も同じように思われたんじゃないでしょうか。

高木 私も何度か大阪の法廷に出向いた時、裁判が行われている部屋の小窓からのぞいてみたことがありますけど、法廷に立った被告人は、だいたいしゅんとして、猫背になり、下を向いて、「自分が悪い」と思い込まされて卑屈になり、人間として弱くなってしまいます。夫の場合、それが一切なかった。そこに一番、皆さん感動して、共感されたのではないでしょうか。

渡邊 一切、姿勢は崩さない。ひるまない。怖じ気づかない。オドオドした態度を一切みせない。「ああ、これがやっぱり、修養を修められた人の本当の姿なんだ」と。そして、<ヒーリング・アーツ>、これが後々、龍宮道へと発展する過程においても、「先生が提唱される修養の道は、間違いないんだ」と。
 つまり、僕がなぜ、高木先生を支えようと決心したのかというと、自分が歩んで来た道に、間違いはなかったという確信を得たわけです。先生の法廷での態度・姿勢を拝見して、信じてきた道に間違いはなかった、と。
 おそらく、ほかの友人たちも同じだと思います。その確信がなかったら、「支える」なんて、やらないですよ。
 我々は、先生のもとで長年学んで来た人間であって、それしかなかったわけです。腰が入り、腹が据わった姿勢、丹田とか、姿勢における中心とか、先生のもとでそういう修養の道を歩んできました。それが実際、刑事裁判の被告として法廷に立たされるという緊急事態、非常事態において、本当に役に立つことを、先生は示されたんです。
 人生を奪われ、社会的な「死」を宣告されようとしているという、まさに生死の境に立たされた時、眉一つ動かさず堂々としていられるのか、そこに真の人間としてつよさ、度量の大きさが、試されるわけですね。そして先生は実際、国家による弾圧、・・・拷問ともいえるような状況の中、何ら普段と変わることがない、今で言うと「人間力」っていうんでしょうか、その人間力を発揮できるんだ、と。そのすごさをひしひしと感じました。

 人をいやすとか、どんなに武術で名を上げ、何人でも倒せる無敵の人でも、法廷に立てば、一被告人なわけです。本当に、徒手空拳ていうんですか、何も手出しができない。防御もできない。何一つできない状況なわけです。
 唯一できることは、レット・オフ(龍宮道の基礎修法)を基調とした瞑想だけで、「それしかすることがないから」とあとで先生がおっしゃってましたけど、本当に今までやってきたことを、普段通りされていたんです。
 その過程で、厚生労働省の不正行為とか、今まで隠れていた事実が明るみに出たり、検察官が出した証拠がデタラメだったことが発覚したり、普通はあり得ないような奇跡的な変化が起こったわけです。

高木 夫が今まで語ってきた言葉が、実際の行動として示せるのか、という点が、今回の裁判で試されたようにも思います。裁判って、実際経験してみると、生死をかけた戦争みたいなものなんですよね。その戦争という状況で、ヒーリング・アーツや龍宮道の意義や価値を、私たち自身が再認識できました(次回へ続く)。

 

注1:弁護側の証拠を検察官が「不同意」とすると、裁判官が機械的に「却下」することについて、多くの弁護士は「仕方がない」と諦めてしまっている事例が多数ある。実際、日本の刑事裁判は、「そもそも裁判になっていない」と言う弁護士も存在する。

注3:山本奈生先生:本サイトの「応援・激励のメッセージ」参照。社会学者、佛教大学専任講師、カンナビスト関西幹事。

注2:東前公幸[ひがしまえきみゆき]:関西在住。渡邊義文代表と共に恩師・高木一行先生の裁判支援や、「龍宮道活身会」の活動に従事。裁判を毎回傍聴し傍聴記を記す。
 「インターネット裁判 第3章 裁判傍聴リポート1」
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 「インターネット裁判 第11章 第5回公判リポート1」
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 「インターネット裁判 第44章 第7回公判リポート1」
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