刑務所より愛を込めて No.6


文/高木一行
〜2016年6月5日 〜


愛する美佳

 少し前に入ってきたTさん(33歳)は、介護士として勤務していたグループ・ホームで起きた転落死事故の全責任を負わされ、2年7ヶ月の実刑判決を受けた。入居者が2階の窓から落ちたのに救急車を呼ばなかった・・・・「それは職務怠慢も甚だしい。厳しく罰せられて当然だ」と思えるが、詳しい事情を聴いてみると、真実は全然違う。
 Tさんの職場では、職員が自分の判断で119番通報してはならないと厳格に定められていたというのだ。・・・・何が起こっても。
 そこでTさんは上司と会社代表に電話したのだが、「氷で頭を冷やしておくように」という指示が返ってきたのみであった。
 入居者が救急車で搬送されると、法律に基づきグループ・ホームからの退去を命じられる。すると国から支給される補助金が会社に入らなくなるため、会社側は入居者がたとえ重病になっても、極力、救急車を呼ぶことを避けようとしていたそうだ。

 あれこれ話を聴くうちに、介護現場の凄惨な逸話が次から次へと飛び出してくる。「刑務所よりもっとひどい所が、この世にはあるんだなあ」とか「生き地獄じゃないか」といった慨嘆の声が、ヤクザを含む同室者たちの口からしばしば漏れる。そんな職場でTさんは、月400時間以上働いていたという。

 くだんの転落死事故が起きた時、会社はTさん1人に責任を押しつけるべく、組織ぐるみで不良経営の隠蔽を図った。元同僚の1人はTさんに不利な嘘の証言までしたそうだ。昇進と昇級につられたのだろう。
 この事件は、高齢化が進行中のわが国が抱える問題の象徴として全国的に報道され、とりわけ介護関係者らの注目するところとなった。
 多くの支援者が見守る中、公判が進んでいったが、例によって検察の主張だけが鵜呑みにされ、弁護側の証拠や証人はことごとく却下されるでたらめな裁判内容となった。
 検察は最初、Tさんが入居者を2階の窓から突き落としたというストーリー(殺人罪)をデッチ上げようとしたが、さすがにそこまでは無理と判断し、途中から遺棄致死の罪を問う方針へと転換した。
 控訴審で裁判長は、控訴趣意書に目を通すことさえ拒絶し、開廷後わずか5分で結審を言い渡したとのこと。

「とにかく公平で公正な裁判をしてほしかった。あれでは到底納得できない」とTさんは言うが、私たちが裁判でずっと訴え続けてきたことと完全に合致しているところが、わが国の司法の歪みを如実に表わしているではないか。
 ここにもまた、冤罪被害者が1人。Tさんも支援者共々、最高裁判事×印運動に参加するそうだ。

2016.06.05       
愛を込めて
一行