刑務所より愛を込めて No.5


文/高木一行
〜 2016年5月28日 〜


愛する美佳

 同室者が1人、また1人と減ってゆき、その代わりに新しい人が入ってきて、今は3人で1つの部屋をシェアしている。
 ある朝突然、事前に何の予告もなく、部屋の扉がガラガラッと引き開けられ、「◎◎番、出る用意をして!」と告げられたら、次の段階へと進んでゆく時が来たということだ。
 ある者は刑務所へ移送され、またある者はここに残って様々な雑役をこなす掃夫(そうふ)なる刑務につく。

 単なる噂に過ぎないが、刑務所と比べれば拘置所は天国とのこと。と同時に、山口県や島根県にある民間運営の刑務所は冷暖房完備、しかもカードキーで受刑者が施設内を比較的自由に移動できるそうだ。刑務内容も、パン製造とか犬のトレーナーなど魅力的。
 それは近未来の刑務所の姿であり、今は移行期ということなのだろう。
 これもまた噂に過ぎないが、そういう素敵な刑務所に入るためには、「刑期が3年以下」「これまで1つの仕事を6年以上務めたことがある」「26歳以上」などの諸条件をクリアしていなければならないらしい。刑期4年4ヶ月の私には無関係な話ではある。
 刑期といえば、再び噂によると、特に問題を起こさない限り刑期の4分の1が差し引かれて仮釈放となるのが通例だそうな。ただし、人権や人道に著しく反する行ないなどを、もし目撃あるいは体験した場合、刑期がどうなろうとも一切構わず、断固として抗議するつもりでいるので、甘い期待はくれぐれもいだかぬように。
 少なくとも現在までのところ、あれこれ不備、不足は目につくけれども、「断固抗議」せねばならぬような事例とは出会ってない。とはいえ、ここはいわばプレ刑務所に過ぎないのだが。

 適性テストや面接も終えたので、刑務所移送の声が、私にもまもなくかかりそうだ。
 拘置所から出す、これが最後の手紙となるかもしれない。今後面会に来る際には事前に必ず、私がまだここにいることを確かめてほしい。

 昨夜、ホトトギスの鳴き声が1度だけ聴こえた。
 初夏――。
 広島拘置所へ着て1ヶ月が過ぎたが、龍宮道の新世界がその間も絶え間なく啓かれ続けている。
 執着や願望を1つ1つ手放してゆく「個」のレベルの禊(みそぎ)が進み、明るく澄み渡った純粋な悦びの振動感覚に全心身が満たされるようになってくると、個を超えた「全」のレベルへと、禊の作用を及ぼしてゆく可能性が、次なる位相として観えてきた。
 合気道開祖・植芝盛平が理想とした「人類の禊」が、龍宮道によって現実のものとなるかもしれない。
 レット・オフを螺旋的に運用することが、「個を超える」ための秘鍵だ。

 今はただひたすら、無欲・無我の浄境を徹底して掘り下げることに専心している。「善きものを得てそれを社会へ還元しよう」という大望さえ解体し、身体のチューニング・レベルを一定以上に保とうとする意欲をも振り捨てて。獄舎の無機質な壁と向き合いながら。

 龍宮道の斬新な新修法とか魂をディープに浄化する禊瞑想、あるいは老や死へのヴィジョンなど、早急に伝え、人々と分かち合いたいことが山ほどあるが、「口を守ること密ならざれば真機を漏らし尽くす」、得がたき霊宝の数々も惜しげなく手放し捨ててしまう。

 こういう修業は実際、刑務所で何年も過ごさなければならないという事態に陥りでもしない限り、そもそもやってみようという気にさえならなかったろう。
 天地自然の働きの神秘を、讃えざるを得ない。

2016.05.28       
一行