麻薬指定の問題点②

 メチロンは厚生労働省医薬食品局長の私的諮問機関、依存性薬物検討会にて、平成18年度に麻薬相当と結論され、最終的に政令改正され、麻薬に指定されました。しかしながら、そのプロセスには様々な問題があり、とても日本国憲法第31条の要請する適正手続に則って行われたと言うことはできません。以下、簡単に理由を示します。

①厚生労働大臣が平成18年11月1日にメチロンの指定薬物指定(麻薬と異なる規制カテゴリー)を指定薬物部会へ諮問する前日、10月31日に、麻薬対策課はメチロンを麻薬指定することを検討する文書を依存性薬物検討会委員に出している。

 平成18年当時の日本におけるドラッグの規制は2段階で行われていました。一つは旧薬事法に基づく指定薬物指定であり、もう一つは麻薬及び向精神薬取締法の麻薬指定です。ドラッグ規制において、前者は公衆衛生上の危機を未然に防ぐ予防的措置として、後者は、十分な研究後に強い依存性と神経毒性を確認できた場合に適用することになっています。

 厚生労働省HPを観てみましょう。

「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)対策のあり方について(提言:要旨)」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/11/s1125-21.html

 麻薬指定については、以下のように述べられています。

「・・・しかしながら麻向法では、個々の物質について有害性を立証した上で、当該物質を麻薬等に指定するため、規制範囲は指定対象となった物質を含有する製品に限定される。そのため、化学構造の類似した新たな物質等が次々と出現し、それらを含有する製品が目まぐるしく交代して流通している違法ドラッグを迅速かつ広範に規制することは難しい。また、有害性が疑われる物質が特定されてから、最終的にそれが麻薬等に指定されるまでには、科学的データの収集等のため少なくとも1~2年の時間を要するという問題がある。」

 つまり通常は、ある物質の脅威を防ぐため、予防的措置として指定薬物指定を行った後、十分な研究結果をもとに、麻薬指定する手順を踏むわけです。

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 ところが、メチロンについては、指定薬物部会への諮問に先立って、麻薬指定を前提とした依存性薬物検討会での検討を計画していることになっています。

 これは予防的措置を行った後、十分な研究を経て麻薬指定を検討するという厚生労働省の説明と異なるものであり、到底「適正な手続き」と見做すことはできません。

 特に、科学的根拠とされた舩田報告(リンク先に詳しい説明があります)のずさんで根拠薄弱な内容を鑑みれば、十分な「科学的データの収集」などされていないことは明らかです。すなわち、明瞭な『適正手続違反』です。

 

②指定薬物部会と依存性薬物検討会は同日、同所、同資料にて開催されている。

 平成18年度の指定薬物部会と依存性薬物検討会は、以下の要領で開催されています。

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 メチロンは指定薬物部会で指定薬物相当との結論を得た30分後には、依存性薬物検討会で、麻薬相当との結論を得ていることになります。前項でも観たとおり、本来、指定薬物指定後、十分な科学的データを収集し、麻薬指定されるのが普通であり、問題だらけの舩田報告を科学的根拠とすることには大変な無理があります。

 

③メチロン麻薬指定のパブリックコメントの公募開始日と、メチロン麻薬指定の政令改正の審査書類提出日が同日であり、パブリックコメントに際し、「メチロン」という通称ではなく、「2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレオンジオキシフェニル)プロパン-1-オン」という化学名のみを利用している。一方で、ほぼ同時にパブリックコメントの公募を開始した指定薬物指定においては、前述した化学名と通称の「メチロン」で検索可能となっている。

 行政手続法39条によると「命令制定機関は、命令等を定めようとするときに、広く一般の意見を求めなければならない」としています。パブリックコメントはそのために行われるわけですが、メチロン麻薬指定に関しては、パブリックコメントの公募開始と同日に、政令改正の審査を進めていることが明らかになっています。すなわち、パブリックコメントで意見を公募してもそれを反映させる気はなかったということであり、行政手続法39条違反です。

 パブリックコメントに際しても、文中に通称である「メチロン」は存在せず、電子政府の窓口サイトe-Govで検索しても麻薬指定のパブリックコメントは出てきません(平成27年12月7日現在)。

「2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレオンジオキシフェニル)プロパン-1-オン」という化学名を「全角」「半角」一切間違わずに入力して検索して初めて該当するパブリックコメントを発見できる状態であり、到底行政手続法39条を遵守したと言える状態ではありません。加えて、この化学名についても国際的に標準とされているIUPAC法に基づいていないことを指摘しておきます。

 何より決定的に問題なのは、指定薬物指定のパブリックコメントにおいては、通称である「メチロン」と「2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレオンジオキシフェニル)プロパン-1-オン」という化学名を併記していることです。ここでも指定薬物指定と麻薬指定が同時に進んでいたことが問題を大きくしています。パブリックコメントの公募期間は両者ともほぼ同時期(1日のずれのみ)であり、指定薬物指定のリストには、メチロンが入っているのです。

 「メチロン」で検索した者は、必然的に、指定薬物指定のパブリックコメントのみに行き当たるわけです。すなわち、「メチロン」は「指定薬物指定」を検討されている物質であって、同時期に「麻薬指定」を検討されていることに気づくことはできません。

 もともと「指定薬物指定」と「麻薬指定」を同時に進行していること自体が大問題ですが、国民に周知し、『広く』意見を求めるパブリックコメント制度を実質的に踏みにじっており、繰り返し指摘した通り行政手続法39条違反です。

 これでどうして「メチロン」が「麻薬指定」されたと知ることができるのでしょうか?むしろ、意図的に「メチロン」の「麻薬指定」を知られないように進めていたとしか考えられません。この点も、『適正手続違反』であり、違憲です。

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④メチロンは正式な手続きを踏むことなく指定薬物指定のリストから除外されている。

 メチロンは麻薬指定と指定薬物指定が同時に進行していたことは前述の通り明らかです。指定薬物指定については、パブリックコメントが公募開始の際も33品目のリストに含まれ、掲載されています。ところが、パブリックコメント募集期間中に、内閣官房副長官補室へ省令改正の審査(指定薬物指定)を依頼した際には、指定薬物指定のリストからメチロンのみ抜かれ、32品目のリストへ変更されているのです。この変更に関しては、追加で指定薬物部会が行われた事実がなく、厚生労働省が勝手に変更して提出したことになります。そして勝手に変更されたまま省令が改正され施行されました。

 「指定薬物部会」とは立法根拠法令の存在する「国家行政組織法8条」に定められた「審議会」に位置するものであり、運営規則が定められた「合議制」の諮問機関です。

 しかし、厚生労働省は、「合議」によらずメチロンを指定薬物指定のリストからこっそり外したのです。このような暴挙は、『適正手続違反』の以外の何物でもありません。

 

⑤メチロンの麻薬指定プロセスの審査において、公文書中にメチロンについて虚偽の説明を付している。

 メチロン麻薬指定に伴う政令改正について内閣官房副長官補室が審査した際、世界の規制状況を説明するくだりで、メチロンは平成18年当時イギリス、オランダで麻薬指定されていると公文書中に記されています。しかし、当時イギリスやオランダがメチロンを麻薬指定していた事実はありません。

 オランダでは今現在でも規制されておらず、イギリスでも2010年にドラッグ・スケジューリングに組み入れられ、規制対象となってはいますが、比較的効果がマイルドとされるClass Bに分類され、ヘロインやコカインなどの麻薬、いわゆるハード・ドラッグとは一線を画す扱いです。

 またメチロンの作用について、「幻覚」があると公文書中に記しています。これも現在に至るまで科学的に確認されていない作用であり、虚偽の説明です。

 どちらも、麻薬指定の是非を判断する際にとても重要な情報であり、そこに虚偽の説明を付して審査を通すなど、あってはならないことです。加えて、虚偽の内容は、メチロンに関する基本的な情報であり、調べればすぐにわかることです。こういった点を考慮すれば、メチロンを麻薬相当と結論した依存性薬物検討会で、科学的、合理的な検討が行われた形跡は皆無と断ぜざるを得ません。これを『適正な手続』と言える人がいるでしょうか?

 

⑥より刑罰の軽い指定薬物指定を検討する指定薬物部会が立法根拠法令のある「審議会」であって、委員氏名・議事録を含め情報公開されているのに対し、殺人と同等の重罰を課す麻薬指定を検討する依存性薬物検討会が立法根拠法令のない「懇談会(私的諮問機関)」であって、委員氏名を含むほぼすべての情報が非公開であり、議事録に至っては作成していない(厚生労働省公式回答)。

 指定薬物部会と依存性薬物検討会の法的位置づけは、全く異なるものであることをまず指摘しておきたいと思います。

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 普通に考えれば、より刑罰の重い麻薬指定に関与する依存性薬物検討会をこそ審議会とし、各種資料を作成・公開することが当然です。ところが現実は真逆となっており、麻薬指定プロセスは全くのブラックボックスです。依存性薬物検討会について、行政文書開示請求を行い、実態解明を進めてきましたが、厚生労働省は、レトリックを弄び、言を左右にして依存性薬物検討会をひた隠しにしています。議事録を継続的に作成していないことといい、依存性薬物検討会の実態が明るみに出ると問題が明るみに出る、と声高に主張しているかのようです。

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 現状、麻薬及び向精神薬取締法の麻薬指定部分は、政令改正、すなわち閣議決定で改正できることになっています。軽微な刑罰ならいざ知らず、殺人と同等の重罰を含む法律=基本的人権を強く制限する刑罰を含む法律であり、本来なら、国会で審議されるべきものです。この点でも日本国憲法第31条の要請する罪刑法定主義に違反するものです。

 仮に、法律の改正を政令へ委任することを合憲的に解釈するとしても、国会で審議する場合と同等の透明性、合理性、検証可能性の確保が必須であることは明らかです。ところが、依存性薬物検討会の資料はほぼ全て隠匿されており、中でも透明性、合理性、検証可能性を保証する要ともいうべき、議事録の作成がなされていません(厚生労働省の公式回答)。メチロン麻薬指定の科学的根拠とされる、問題だらけの舩田報告の実態を考慮すれば、一体、誰が、いかなる議論を以て、麻薬相当と結論づけたのかを明確にすることは絶対に必要なことです。

 これは、基本的人権に強い制限を加える法律改正の過程が、今だけでなく、将来にわたって検証不可能であり、要するに「依存性薬物検討会は一体誰が何をやっているのかわからない」状態が未来永劫続くことを意味します。このような、一部の役人や利害関係者のやりたい放題に歯止めをかけるために憲法は存在するはずですし、事実、日本国憲法第31条(罪刑法定主義・適正手続)が規定されているのです。

 それでも1審、2審とも裁判所は「それで問題なし」としました。国民の常識を無視した独自の世界観であり、日本の司法が病んでいる証ですし、同時に裁判所の人権意識の希薄さを象徴するものです。そしてそのような病的な裁判所の態度は、高木先生の裁判に限ったことではなく、特に刑事裁判の現場では普通に観られる現実なのです。自分が巻きこまれることがなかったら、まず目にすることのない現実ですが・・・。

 科学の進歩と共に、昨今えん罪・再審を訴え勝ち取る例が増えてきた背景には、警察・検察の自白を中心とした立証方法のみに原因があるのではなく、裁判所による予断と偏見も大きく影を落としているのではないでしょうか?

 最後により詳しい解説資料を以下にご紹介します。ご一読ください。

メチロン麻薬指定実体面の問題

メチロン麻薬指定の科学的根拠とされる舩田報告の問題点について

メチロン麻薬指定のプロセスと指定薬物指定のプロセス

メチロン麻薬指定のプロセスと指定薬物指定のプロセスの比較と問題点について

依存性薬物検討会と指定薬物部会

依存性薬物検討会と指定薬物部会の比較と問題点について

依存性薬物検討会と行政文書開示請求

依存性薬物検討会の行政文書開示請求を通して観えてきた問題点について