刑務所より愛を込めて No.19


文/高木一行
〜2017年5月4日〜


愛する美佳、

 現状整理と記録、そして精神的・物質的な各方面において私をずっと支持・応援してきてくださっている熱誠篤実なる支援者各位への中間報告を兼ね、ここ最近の(アクシデント的)出来事について、簡潔に記しておきたいと思う。

 刑務所内での私の動向に意を注いでくださっている方々は、介護福祉界の現状と展望について学んだ後、私が窯業(焼き物)の職業訓練へと移り、職人集団の如き生真面目(きまじめ)な雰囲気の中、毎日ろくろと向き合いながら、研究・工夫・努力・精進を重ねてきたことをご存知だろう。土練り3年、ろくろ10年という言葉が示すように、決して容易な道ではない。しかしながら、わが生命をもって粘土に語りかけるつもりで触れ合ってゆくうちに、粘土の声なき声を聴けたと感じる瞬間が幾度も起こるようになってきた。そうなってくると、最初のうち「こんなことが一体できるようになるのか」と思えたことも、楽々と自然に行なえるようになり始める。「これほどの短期間でここまでできるようになる者はなかなかいない」などと周囲からしばしばほめられもしたが、焼き物の奥行きは計り知れないほど深い。慢心している暇などありはしないから、より一層の精進を心がけ・・・・ていたところ、4月中旬のある日、粘土をかくはんするミキサーの先端部分がいつの間にかかけていたことが発見され、さあそれからが大変だ。刑務所職員が大挙して押し寄せてきて、工場内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。欠損した部分を、誰かが悪しき意図をもって隠匿したに違いない・・・?・・・!
 冗談を、私は述べているわけではなく、実際にその「隠匿」の容疑で、過去1ヶ月間くだんの工具に触れた者3名が、直ちに独房へ隔離され、約3週間に渡り、厳しい調査、追求を受けたのだ。その3名の中に、私も入っていた、という次第。

 私を含め、何の役にも立たない金属片などを好きこのんで隠し持とうとする者など、そもそもいるだろうか? 何かの拍子に破損し、ゴミと一緒に捨てられた、といったところが真相に違いない。実際、各自の居室を含め、工場内を隈なく捜索した結果、どこからも破片など発見されなかった。
 これで一件落着かと思いきや、そうは問屋が卸さないのが刑務所というところだ。隠匿はしてなかったようだが、「工具の不具合を発見した時は直ちに職員に報告すること」という「作業安全衛生義務」に違反したではないか、と思いもかけぬ方向から責め立てられることとなった。「不具合を発見」しようにも、初めて目にした器具の、きれいに破損した形状が本来の形であると、私は素直に思い込んで疑うことすらしなかったのだが、「それは注意深く観察しなかったからだ」と言われれば、返す言葉はもはやない。刑務所の常識は外の世界の非常識、外の世界の常識は刑務所の非常識、と受刑者たちはよく言うが、それが私の置かれた現実であるならば、その現実をただあるがままに受け入れ、その現実の中でたくましく生きる道を模索し続けるしかない。
 さて、約3週間に及んだ調査の結果は、「作業安全衛生違反で訓戒」、窯業の職業訓練など最初からなかったかのように、別の(最初に配属された)工場へ移された。その移送の際、付き添っていた職員が憮然とした表情でぽつりと一言。「皆、真面目にやっていたことは、現場の職員は全員よくわかっている」と。しかし、判断し決定を下すのは、それら現場の職員ではなく、「上」の職員たちなのだ。

 私の裁判の時とよく似ているな、と思われた方も多かろう。確かに。だが規模は遥かに小さい。訓戒(口頭での注意)は最も軽い罰だし、工場を移ったといっても、山口刑務所の中で一方の隅からもう一方の隅へと動いただけのことだ。
 逮捕・裁判・(冤罪による)投獄という大波の後で、形は似ているがもっとずっと小さな波が、余韻のように寄せては返しを繰り返しながら、全体としては引き潮となってどんどん後退していっている、そんな感じだ。
 古巣というべき現工場での作業は、窯業と比べれば困難なところが少しもない。単に安易さのみを求めるのであれば、それはむしろ喜ばしいものかもしれない。だが私は常にチャレンジし続けたい。刑務所生活のすべてを修業と位置づけ、真剣な努力を傾注してきた。それはこれからも変わらない。

 調査のため隔離され、その間に課せられた作業としてひたすら折り鶴を折り続ける無機質な生活の中にあっても、心身修養の道はとどまるところを知らず拓(ひら)かれてゆく。今回の調査期間中、青年時代に学んだ大東流合気柔術に関する新たな洞察を連続して得て、日本古武道の精華といわれる「合気」の極意を、誰でも修得可能なエッセンス的修法としてまとめた。
「極意とはまつ毛のようなもので、すぐ目の前にあるのにそれに気付く者は少ない」というが、なるほど、いかにもその通りだ。

 2017.05.04       

 愛を込めて
 一行